川のほとりで


タオ×アカリ


よく晴れた青い空の下。
朝なのに外に出ただけでも太陽の元気さがよくわかる暑さだった。


「よっ、タオ!また釣りか?」
突然横から声が飛んできて、顔を向けるとニカッと歯を見せながらこちらにやってくる男に気付き、タオは持っていた釣り具を彼に見えるように軽く持ち上げてみせた。
「はい、仕事でもありますから。オセはこれから鉱山へ?」
「ああ。俺には魚を待つなんてことは退屈で敵わんからな…身体をひたすら動かしてる方が性に合ってるんだ。」
「それは私も人に言えませんねぇ。同じく、私に鉱山で採掘するように力仕事は合いませんから…」
「ははっ、それは違いないな!でも、割りと女にはウケるんじゃないか? たとえば、アカリ、とかな。」
唐突に出された名前に、思わず目を見開いて快活な幼馴染みの顔をみた。
すると、したり顔というまさにその顔で彼は「お前って、案外わかりやすいよな。」と笑われてしまった。

「今日もあいつと釣りだろ?」


「え…ええ、まぁ…。」


何故彼は知っているんだろうとばかりぎこちなく頷くと、オセは笑いながら手をひらひらさせた。
「心配すんなって、お前が思ってるような関係じゃねぇからよ。
鉱山でたまたまアカリに会った時に、お前と釣りだって話を聞いただけだ。」
「いえ…別に私は心配なんて…。」
「そんな遠慮しなくていいんだぞ?俺はお前を応援してるからな。」
「頑張れよ。」と軽く肩を小突かれ、改めて幼馴染みの優しさが肌にしみる。
その何処とない気恥ずかしさを感じた逡巡の後、「…ありがとうございます。」と小さく頭を下げると「気にするなって、ルークも応援してっからよ。」ともう一人の幼馴染みの存在を出して彼は再び白い歯を見せて笑った。




「うーん…、なかなか釣れないですねー…。」
「そうですね、魚もなかなかの気まぐれですからねぇ。」
川辺に頭を並べるように2人、なかなか沈まない浮きをジッと見つめていた。
ちょうど正午を跨ぐ頃で、真上の太陽の日差しが川の流れにキラキラと光を泳いでいる。
澄んだその川の綺麗な水を見れば、確かに魚はそこにいるのに一向に引っかかる様子はなく。
「あんなに居るなら一匹くらい釣り糸にかかってくれてもいいのになぁ。」
「もしかしたら、警戒心の強い魚なのかもしれませんねぇ。」
少し退屈そうに見えるアカリに簡単な相槌を打ちながらも、心配をしてしまう。
彼女はオセと同じく、体を動かす事が好きだ。
もしかしたら、釣りなんて地味な物は好きじゃないかもしれない。
そう思うと、どうしても気になって仕方なくって。

「あの、アカリさん…。」
「んー?何ですか?」
浮きを見つめ続ける彼女に、気付けば自然と口が開いていた。

「その、
………釣りは楽しいですか?」


実を言えばの所を、お聞かせ願いたいです。
声が少し震えてしまい、随分と情けない質問となってしまった。
どうしてそんな事を言い出してしまったのかは自分でもわからない。
ただただ必死な声が穏やかに流れる水の音に混じった。
「タオさん」
そんな弱々しいタオの質問を理解しようと、アカリは数回瞬きをして。
すぐに彼女は、「あははっ」と明るく笑ってみせた。
「なーんだ!さっきから浮かない顔してると思ったら、そんな事考えてたんですね。
確かに待つのはちょっとだけ退屈かもしれないですけど……、
それを含めて楽しむのが釣りなんでしょう?」

あなたが教えてくれた事じゃないですか。

そう言って「おかしなタオさん!」と晴れた笑い声が青い空に広がった。



ーーーーーーああ、そうだ、そうだった。彼女はこういう人だった。
人の好意をきちんと好意として受け取る人。
自分はそんな彼女に惹かれたのではなかったか。
「そう、ですね…。変な質問をしてしまいました。すみません。」
「いえいえ、気にしなくていいですよ!……それにね、タオさん、」
私、タオさんといるから更に釣りが楽しいと思うんだ。
えへへ、と気恥ずかしそうに彼女は鼻をかいて笑った。
「アカリさん……。」
その言葉の真意はわからない。

でも、だけど。
「私も……同じ気持ちです、」
貴女と釣りをする時間が楽しくて、楽しくて。
水面で反射した光が揺らぐ彼女の双眸を見つめながら、少しはにかんでみせる。
「だから、とても嬉しいです、あなたにそう言っていただけて。」
細い黄緑の瞳を少しちろりと見せた後、ぎゅっと瞑ってタオはいつもの人好きしそうな顔をした。

「じゃあ……次も誘ってくれますよね?」
「ええ、勿論。アカリさんさえ良ければ、常に私は大歓迎ですから。」
その言葉を聞いて「やった!」なんて言ってあからさまにガッツポーズをするアカリに、声を出してタオがふふっと喉を鳴らせる。
喜ぶ彼女の頬が少し色付いているのは、太陽のせいではなく自分のせいであって欲しい、そんな願いを浮きに託して。








「あっ!引いてる!」
「おや、本当ですね。落ち着いてリールを巻いてみましょう。」
「は、はい…!」

くるくるくるくる
長かった赤い糸が、リールに巻きついてどんどん短くなってゆく。




- Fin -



コタ様との相互リンクとしてタオアカ書かせていただきました!
タオさんと言えば釣りという安直さがお恥ずかしい…。
タオアカはピュアで甘酸っぱい恋をしてるイメージがあります、常々お互いがお互いにときめくといった風に…!
コタ様、相互リンクありがとうございました!